再発予防のための管理目標値
ACS再発予防のためのコレステロール値、血糖値、血圧の管理目標値は、それぞれの患者さんの病状やリスクに応じて異なります。診療の際には、この目標値を達成することを一つの目安として、生活指導が行われたり、処方されるお薬の種類や量が調整されたりします。
- 生活習慣の改善やお薬の服用を通して、コレステロール値、血糖値、血圧を目標値まで下げ、その状態を
維持することは、患者さんとご家族のみなさまの将来にとても大きな意味をもちます。 - ご自身の目標値がわからない場合は、主治医に確認してみましょう。また、ご家族とも目標値を共有し、
生活改善の目安にしてください。
1
脂質異常症と再発リスクの関係1)
- ACSの引き金となる冠動脈のプラークは、血管そのものにコレステロールが溜まることによって作られます。血管に溜まるコレステロールは血液中のLDLコレステロール(LDL-C)です。HDLコレステロール(HDL-C)は溜まったLDL-Cを取り出してプラークの形成を抑制することから、LDL-C値が高く、HDL-C値が低い脂質異常症の患者さんでは、再発リスクが高まります。
- 一般の人々から脂質異常症というリスク因子がなくなった場合、急性心筋梗塞を起こす患者さんの割合が49%減少するとの報告があり2)、脂質異常症は心血管イベントリスクを低下させるのに重要な因子であるといえます。
脂質管理の重要性3)
LDL-C値とACSの関係
- LDL-C値が高いと、ACSの再発リスクが増加します。たとえば、LDL-C値が80mg/dL未満の患者さんに比べて100〜119mg/dLの患者さんでは約2倍、140mg/dL以上の患者さんでは約3倍冠動脈疾患が起こりやすいという報告もあり4)、脂質管理は極めて重要です。
脂質管理目標値
- ACSを発症したことがある患者さんは、LDL-C値70mg/dL未満を目標として考慮する、とされています。

- ※ 二次予防 発生した病気や障害を早期に発見し、早期に治療や対策を行い、病気や障害の重症化や再発を防ぐこと。
家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia:FH)患者さんの脂質管理
- 遺伝的に血液中のLDL-C値が高くなる病気です。
- 若いうちから動脈硬化が進み、血管が狭くなったり詰まったりして冠動脈疾患が起こるリスクが高まります。
- FHの患者さんは冠動脈疾患のリスクが高いため、冠動脈疾患の既往がある場合には再発予防のためにLDL-C値70mg/dL未満を目標として考慮する、とされています。

上記3 つの項目のうち一つでも当てはまる方は医師にご相談ください。
2
- 高血圧は冠動脈に負荷を与えることで動脈硬化を促進し、ACSの再発リスクを高める可能性が指摘されています。
- 冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞など)を発症したことがある患者さんの降圧目標値は、診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満とされています。なお、 75歳以上の方は、まずは診察室血圧140/90mmHg未満、家庭血圧135/85mmHg未満を目指しましょう。

3
- 糖尿病は、LDL-C値の上昇やHDL-C値の低下、あるいは冠動脈の血管のはたらきの異常や炎症などに関与して動脈硬化を促進させることなどが指摘されており、ACSの再発リスクを高めます。そのため、糖尿病を合併する患者さんでは適切な血糖コントロールが必要になります。
- また、高血糖の状態が続くと、腎機能の低下、目の病気(網膜症)、神経障害などの合併症のリスクも高まります。
- 生活習慣の改善を行いながら、必要に応じて薬物療法を行い、血糖値をコントロールする必要があります。血糖コントロールができているかは、過去1〜2ヵ月間の平均的な血糖値を示すHbA1cを測ります。合併症予防のための目標値であるHbA1c 7.0%未満を目指しましょう。
(65歳以上の高齢者については「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を参照)


再度、心筋梗塞や不安定狭心症を起こさないため、管理目標値を主治医に確認しましょう。
コレステロール値
-
現在の数値
LDL-C mg/dL
(non-HDL-C< mg/dL)
-
目標値
LDL-C mg/dL
(non-HDL-C< mg/dL)
すべての方でHDL-C ≧40mg/dL、TG<150mg/dL
血 圧
-
現在の数値
/ mmHg
(家庭血圧< / mmHg)
-
目標値
/ mmHg
(家庭血圧< / mmHg)
血糖値
-
現在の数値
HbA1c %
-
目標値
HbA1c %
- 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版
- Yusuf S et al. Lancet 2004; 364: 937-952
- 日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 日本動脈硬化学会, 2022
- Imano H,et al. Prev Med 2011;52:381-386
- 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編:高血圧治療ガイドライン2019
- 日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023. 文光堂. 2022
- 門脇 孝 総編集:心血管リスクを防ぐ! テーラーメイド 糖尿病診療ガイド